漆の新しい場所

高橋悠眞 #漆作家

宇宙を身近に感じるには?
空を見上げるのが良いとはおもう。
けれども手元の漆をみつめてみる。
その深い黒の中には宇宙があった
続けることに価値を
その拡張は止まらないだろう

ー高橋さんの出身はどちらですか?

東京の千駄木です。浪人して23歳の時、山形の東北芸術工科大学に進学しました。2015年、金沢の卯辰山工芸工房に入り、2018年に修了しました。今、独立して3年目です。

ー東北芸術工科大学に進学したのはなぜですか?

漆の勉強のためです。もともとものづくりが好きだったんです。何かデザインや工芸をやりたいなと思った時に、漆という素材に興味を持ちました。

ーその、漆に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

浪人中、漆芸作家の松井圭太郎さんの個展を見に行ったんです。そこでこれ漆なの?と思う作品に出会いました。非常に色味や質感が豊かな作品を作られていて衝撃的でしたね。勝手に、漆は黒と赤というイメージがあったんですけど覆されました。陶芸や金工を学べる場所はたくさんあるけれど、漆は学ぼうと思ってなかなか簡単に学べない。わからないから学びたい。そう思ったんです。

ー入学して、印象的なことは。

2011年、震災の年に入学しました。震災の影響で入学が1ヶ月伸びましたが、入学直後は「もの」を作る雰囲気ではなかったですね。当時学長をされていた根岸吉太郎さんの呼びかけで、5月から宮城に行って災害ボランティアの活動をしました。その後も災害ボランティアに従事しながら何か自分の中で1回マイナスというか、「もの」がなくなっている環境を、自分がそういうものを目にしてもなお、何を作りたいのかなっていうのをずっと考えていました。それは今もですが。

ーそこからなぜ金沢に向かったのでしょうか?

大学院に行きたかったんですが経済的に厳しかったんです。そんな時、教授に金沢卯辰山工芸工房を紹介してもらいました。見学して、在籍している人ともお話して、すごく雰囲気が良かったので行きたいと思いました。

ーアーティストを支援する場所があるんですよね。

金沢卯辰山工芸工房は陶芸、ガラス、漆芸、染色、金工の工房があり、約30名が最長3年間学べる研修施設です。漆の研修生は5人です。そこでは年間120万円の奨励金をいただけます。3年間、みっちり制作するのが当たり前な環境で生活していて刺激的でした。大学では作家を志望する人が少なかったのですが、卯辰山は作家を目指す人しかいなかったので、そこも良かったです。周りのモチベーションも高い。日本では奨励金をいただきながら工芸の作家を育成する機関は珍しいと思います。なので全国から美術大学や研修施設を卒業した人達が集まります。みんなレベルが高くて周りとの技術の差、意識の差には驚きました。

ー基本的に漆にはどのような種類があるのでしょうか。

蒔絵は金粉、銀粉を使います。螺鈿は貝です。髹漆と呼ばれる乾漆技法は麻布に漆を染み込ませて仏像や箱を作ります。その他にも彫漆、沈金、蒟醬と様々です。卯辰山で同じ時期にいた漆の研修生はそれぞれ違う技法をやっていたので、研修生同士で学び合ったりしました。

ー他コースの方との交流はありますか?

年に1回、21世紀美術館などのお茶室を借りてお茶会をするんですが、そこでは掛け軸などの設えから衣装、茶道具全て研修者で制作します。その中で異素材との共同制作を行ったりして、他の素材のことも知ることができて勉強になりましたね。卯辰山で知り合った陶芸作家の松永圭太さんとは今でも一緒に作品を作っています。

ー卯辰山工芸工房にいらっしゃるのはどんな先生方ですか?

基本的に先生はいません。各専攻に専門員という方がいて、研修生がこういうことをこういう人に学びたいと伝えるとアポを取ってくれて、年間10名ぐらい講義に呼んでくださいます。人間国宝の先生を呼んでくださったこともありました。そんな機会普段はないので嬉しかったですね。年二回の講評会の際にも、外部から先生がきてくださったりします。勉強になりました。

ー金沢に残ったのはなぜですか?

技術的にわからないことがある時、金沢だったら周りに聞ける人がいる。東京にもいなくはないんですが、金沢には石を投げれば工芸作家に当たるくらい、普通に生活の中にいて、コミュニティーがたくさんあります。
あと卯辰山の修了生が借りられるレンタル工房があるんです。それがめちゃくちゃ安く借りられて。3年間金沢の皆様にお世話になったので、その還元もするべきかな?と思っています(笑)。

ー作家で食べていけると思ったのはいつですか?

卯辰山にいる最中にギャラリーで展示、販売させてもらう機会があったんですが、金沢の人は作品を購入するんですよね。作品が売れて、そのお金でまた作品を作る。実践経験もしながら徐々に作家で食べていくことを意識しました。ギャラリーで展示すると少しずつお客さんもついて、3年間作っては売ってを繰り返しました。これなら出てもご飯たべられるかなと思いましたね。こちらは家賃も安いので。

ー高橋さんが考える、職人と作家の違いは何ですか?

職人さんは100個あったら全部同じ物にできないとダメ。それが職人です。僕は100個全部違うものを作りたい。職人と作家の違いを大きく分けると、そこだと思います。

ー工芸作家がギャラリーに所属することはよくあることなのでしょうか?

工芸でギャラリーに所属する人は昔に比べると減っているそうです。僕は無所属なのでギャラリーの空間や雰囲気に少し合わせてニュアンスは変えます。そのほうが面白いです。せっかく来てくださるのであればそこでしか見られない展示をしたいなと思っています。

ー伝統工芸に携わっているというのは、どのような気持ちですか?

漆は9000年、非公式では一番古くて14000年以上昔からあるといわれています。滑稽って言い方はおかしいんですが……10000年同じことをしている。木から取って塗って乾かして研いで、変わらず同じことをしているのはちょっと面白くもありおかしくもありますね。なぜ漆なんですか?って聞かれることも多いです。違う塗料も試してみたんですけど、産業廃棄物が出たり臭いがきつかったり環境や安全面で不安になりました。近年開発された塗料は長くて数十年のデータしかない。逆に漆は9000年前のものがどうなるのか分かっています。一番安心して使える素材だなって思いますね。どう劣化してどう変化していくのはなんとなく分かるので。漆は修復、修繕を加えればすれば100年以上もつ素材です。そこは他の塗料とは違うところですよね。

ー伝統工芸の良さとは何ですか?

伝統工芸を続けていらっしゃる先生方は漆に対する気持ちがまっすぐというか大らかというかとにかくすごいです。10代の頃は伝統工芸展に行っても、なにがおもしろいんだっていう見方しかできなかった。けれど大学で学んで卯辰山に入って色々知った上で改めて見ると、すごい世界で遠い存在だと思いました。そういうところでちゃんとした技法を継承されている方がいるので、僕は僕なりの技法を追及していきたいです。

ー仕事でお願いされるものと自分の作品とで向き合い方の違いはありますか?

基本的には自分のやりたい仕事しかしていません。受注はあまり引き受けず、ギャラリーに出しているものをその時に買ってくださいっていうのがほとんどです。コミッションワークで引き受ける場合ももちろんありますが、多くは自分のやっている作風を理解して依頼してくださるのでストレスはないです。

ー同世代の作家はいますか?

池田晃将さんです。螺鈿をレーザーでカットした作品はすごい人気です。漆で完売作家はあまり聞かないのですが、近年稀に見るスターですね。テクノロジーと伝統を上手に引き合わせた作家さんで好きです。

ーSNSとはどのような向き合い方をしていますか?

絶対にやった方がいいです。みんな見てくれています。Instagramをみて展示に来て、購入してくださった方もいます。世界中と繋がることができるので、自分で発信するべき時代だと思います。十数年前にはない環境なので、いい時代だなと思いますね。

ー作品の値段はどのようにつけていますか?

自分でつけています。値段についてはいつも考えています。自分が欲しい金額ともらえる金額が一致するとは限らない。どうすればいいんだろうと。定価の半分はギャラリーに払われるので、自分が思っている金額をもらうためには倍の値段をつけなければならないので難しいですね。

ー高橋さんの、自分が思う自分の特色は何ですか?

武器としては色味ですね。色数、色味の多さは誰にも負けない自信があります。写真や映像では限界があるので、実物を見て欲しいですね。ほんとうにレイヤーの中に奥行きがある。自分はスーパーフラットって呼んでいます。研磨された漆の平面はインクの凹凸もないんです。

ー漆の新しい居場所をコンセプトに活動されています。

大学生の自分は、漆は茶碗、硯箱、蒔絵といったものしか考えていませんでした。ですが漆は何にでも塗ることができて何にでも寄生できます。漆の、塗料としての優位性というのをもっと発信していきたいです。今は需要が少ないのがデメリットなので、もっと興味を持ってくれる人が増えたら面白いと思っています。しかしプレーヤーが少ないから僕でも声をかけてもらえる。僕が陶芸をしていたら埋もれていたと思います。漆を続けているからこそ生まれる縁が、今の自分を形成しています。あとは漆の用途を増やすことで、漆屋さんや漆掻き職人さんにも何か還元出来るんじゃないかと思っています。漆は学ぶ場所が少ない、かぶれるなどリスクがある素材です。材料としても、国産漆は約10万円/kg、中国産でも約1万/kgと高いです。中国産だから悪いと言う人もいますが、江戸時代からずっと頼ってきている良質なものです。漆のお椀など日常で使う物をはじめ、様々なアイテムに漆塗りを施すことで需要が増えればいいですね。

ー作家として心がけていることはありますか?

続けることですよね。その作品の価値を保証するために自分が作家として続けなければいけない。値段をつける上で、その責任感はいつも感じています。

ーアートをしている感覚はありますか?

カテゴリーとして僕は漆芸家でいいのかなと思います。職人的な仕事と作家の仕事を使い分けて柔軟に楽しんでいます。ストリートやサブカルチャーを吸収して育ったので大友昇平さんや丸岡和吾さんなど、工芸と違うジャンルにも興味があります。そういったカルチャーに、漆も発展してもいいかなとは思っています。

ー次世代に繋げようと思いますか?

今まで自分のことで精一杯だったんですけど、2021年から母校の東北芸術工科大学で非常勤講師として授業をすることになりました。20歳の学生たちに何を教えられるか考えますし、教えることによって自分自身にも何か発見があるかなと楽しみにしています。限られた時間の中で、漆に興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいなあと思います。

高橋悠眞 Takahashi Yuma
1988年 東京都生まれ
2015年 東北芸術工科大学 芸術学部美術科工芸コース 卒業
2018年 金沢卯辰山工芸工房 修了
現在 金沢にて制作

■2021年展覧会スケジュール
スペース大原(岐阜県多治見)
4月3日(土)〜4月11日(日)
高橋悠眞・靏林舞美 展(漆・ガラス)
http://www.spaceohara.com/

アートスペースモルゲンロート(東京都南青山)
5月6日(木)〜5月16日(日)
北郷江・高橋悠眞 展(陶・漆)
http://morgenrotarts.com/

クラフト広坂(石川県金沢)
6月1日(火)〜6月27日(日)
杉原倫子・高橋悠眞(ガラス・漆)
http://www.crafts-hirosaka.jp/

漆の新しい場所

高橋悠眞 #漆作家

宇宙を身近に感じるには?
空を見上げるのが良いとはおもう。
けれども手元の漆をみつめてみる。
その深い黒の中には宇宙があった
続けることに価値を
その拡張は止まらないだろう

ー高橋さんの出身はどちらですか?

東京の千駄木です。浪人して23歳の時、山形の東北芸術工科大学に進学しました。2015年、金沢の卯辰山工芸工房に入り、2018年に修了しました。今、独立して3年目です。

ー東北芸術工科大学に進学したのはなぜですか?

漆の勉強のためです。もともとものづくりが好きだったんです。何かデザインや工芸をやりたいなと思った時に、漆という素材に興味を持ちました。

ーその、漆に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

浪人中、漆芸作家の松井圭太郎さんの個展を見に行ったんです。そこでこれ漆なの?と思う作品に出会いました。非常に色味や質感が豊かな作品を作られていて衝撃的でしたね。勝手に、漆は黒と赤というイメージがあったんですけど覆されました。陶芸や金工を学べる場所はたくさんあるけれど、漆は学ぼうと思ってなかなか簡単に学べない。わからないから学びたい。そう思ったんです。

ー入学して、印象的なことは。

2011年、震災の年に入学しました。震災の影響で入学が1ヶ月伸びましたが、入学直後は「もの」を作る雰囲気ではなかったですね。当時学長をされていた根岸吉太郎さんの呼びかけで、5月から宮城に行って災害ボランティアの活動をしました。その後も災害ボランティアに従事しながら何か自分の中で1回マイナスというか、「もの」がなくなっている環境を、自分がそういうものを目にしてもなお、何を作りたいのかなっていうのをずっと考えていました。それは今もですが。

ーそこからなぜ金沢に向かったのでしょうか?

大学院に行きたかったんですが経済的に厳しかったんです。そんな時、教授に金沢卯辰山工芸工房を紹介してもらいました。見学して、在籍している人ともお話して、すごく雰囲気が良かったので行きたいと思いました。

ーアーティストを支援する場所があるんですよね。

金沢卯辰山工芸工房は陶芸、ガラス、漆芸、染色、金工の工房があり、約30名が最長3年間学べる研修施設です。漆の研修生は5人です。そこでは年間120万円の奨励金をいただけます。3年間、みっちり制作するのが当たり前な環境で生活していて刺激的でした。大学では作家を志望する人が少なかったのですが、卯辰山は作家を目指す人しかいなかったので、そこも良かったです。周りのモチベーションも高い。日本では奨励金をいただきながら工芸の作家を育成する機関は珍しいと思います。なので全国から美術大学や研修施設を卒業した人達が集まります。みんなレベルが高くて周りとの技術の差、意識の差には驚きました。

ー基本的に漆にはどのような種類があるのでしょうか。

蒔絵は金粉、銀粉を使います。螺鈿は貝です。髹漆と呼ばれる乾漆技法は麻布に漆を染み込ませて仏像や箱を作ります。その他にも彫漆、沈金、蒟醬と様々です。卯辰山で同じ時期にいた漆の研修生はそれぞれ違う技法をやっていたので、研修生同士で学び合ったりしました。

ー他コースの方との交流はありますか?

年に1回、21世紀美術館などのお茶室を借りてお茶会をするんですが、そこでは掛け軸などの設えから衣装、茶道具全て研修者で制作します。その中で異素材との共同制作を行ったりして、他の素材のことも知ることができて勉強になりましたね。卯辰山で知り合った陶芸作家の松永圭太さんとは今でも一緒に作品を作っています。

ー卯辰山工芸工房にいらっしゃるのはどんな先生方ですか?

基本的に先生はいません。各専攻に専門員という方がいて、研修生がこういうことをこういう人に学びたいと伝えるとアポを取ってくれて、年間10名ぐらい講義に呼んでくださいます。人間国宝の先生を呼んでくださったこともありました。そんな機会普段はないので嬉しかったですね。年二回の講評会の際にも、外部から先生がきてくださったりします。勉強になりました。

ー金沢に残ったのはなぜですか?

技術的にわからないことがある時、金沢だったら周りに聞ける人がいる。東京にもいなくはないんですが、金沢には石を投げれば工芸作家に当たるくらい、普通に生活の中にいて、コミュニティーがたくさんあります。
あと卯辰山の修了生が借りられるレンタル工房があるんです。それがめちゃくちゃ安く借りられて。3年間金沢の皆様にお世話になったので、その還元もするべきかな?と思っています(笑)。

ー作家で食べていけると思ったのはいつですか?

卯辰山にいる最中にギャラリーで展示、販売させてもらう機会があったんですが、金沢の人は作品を購入するんですよね。作品が売れて、そのお金でまた作品を作る。実践経験もしながら徐々に作家で食べていくことを意識しました。ギャラリーで展示すると少しずつお客さんもついて、3年間作っては売ってを繰り返しました。これなら出てもご飯たべられるかなと思いましたね。こちらは家賃も安いので。

ー高橋さんが考える、職人と作家の違いは何ですか?

職人さんは100個あったら全部同じ物にできないとダメ。それが職人です。僕は100個全部違うものを作りたい。職人と作家の違いを大きく分けると、そこだと思います。

ー工芸作家がギャラリーに所属することはよくあることなのでしょうか?

工芸でギャラリーに所属する人は昔に比べると減っているそうです。僕は無所属なのでギャラリーの空間や雰囲気に少し合わせてニュアンスは変えます。そのほうが面白いです。せっかく来てくださるのであればそこでしか見られない展示をしたいなと思っています。

ー伝統工芸に携わっているというのは、どのような気持ちですか?

漆は9000年、非公式では一番古くて14000年以上昔からあるといわれています。滑稽って言い方はおかしいんですが……10000年同じことをしている。木から取って塗って乾かして研いで、変わらず同じことをしているのはちょっと面白くもありおかしくもありますね。なぜ漆なんですか?って聞かれることも多いです。違う塗料も試してみたんですけど、産業廃棄物が出たり臭いがきつかったり環境や安全面で不安になりました。近年開発された塗料は長くて数十年のデータしかない。逆に漆は9000年前のものがどうなるのか分かっています。一番安心して使える素材だなって思いますね。どう劣化してどう変化していくのはなんとなく分かるので。漆は修復、修繕を加えればすれば100年以上もつ素材です。そこは他の塗料とは違うところですよね。

ー伝統工芸の良さとは何ですか?

伝統工芸を続けていらっしゃる先生方は漆に対する気持ちがまっすぐというか大らかというかとにかくすごいです。10代の頃は伝統工芸展に行っても、なにがおもしろいんだっていう見方しかできなかった。けれど大学で学んで卯辰山に入って色々知った上で改めて見ると、すごい世界で遠い存在だと思いました。そういうところでちゃんとした技法を継承されている方がいるので、僕は僕なりの技法を追及していきたいです。

ー仕事でお願いされるものと自分の作品とで向き合い方の違いはありますか?

基本的には自分のやりたい仕事しかしていません。受注はあまり引き受けず、ギャラリーに出しているものをその時に買ってくださいっていうのがほとんどです。コミッションワークで引き受ける場合ももちろんありますが、多くは自分のやっている作風を理解して依頼してくださるのでストレスはないです。

ー同世代の作家はいますか?

池田晃将さんです。螺鈿をレーザーでカットした作品はすごい人気です。漆で完売作家はあまり聞かないのですが、近年稀に見るスターですね。テクノロジーと伝統を上手に引き合わせた作家さんで好きです。

ーSNSとはどのような向き合い方をしていますか?

絶対にやった方がいいです。みんな見てくれています。Instagramをみて展示に来て、購入してくださった方もいます。世界中と繋がることができるので、自分で発信するべき時代だと思います。十数年前にはない環境なので、いい時代だなと思いますね。

ー作品の値段はどのようにつけていますか?

自分でつけています。値段についてはいつも考えています。自分が欲しい金額ともらえる金額が一致するとは限らない。どうすればいいんだろうと。定価の半分はギャラリーに払われるので、自分が思っている金額をもらうためには倍の値段をつけなければならないので難しいですね。

ー高橋さんの、自分が思う自分の特色は何ですか?

武器としては色味ですね。色数、色味の多さは誰にも負けない自信があります。写真や映像では限界があるので、実物を見て欲しいですね。ほんとうにレイヤーの中に奥行きがある。自分はスーパーフラットって呼んでいます。研磨された漆の平面はインクの凹凸もないんです。

ー漆の新しい居場所をコンセプトに活動されています。

大学生の自分は、漆は茶碗、硯箱、蒔絵といったものしか考えていませんでした。ですが漆は何にでも塗ることができて何にでも寄生できます。漆の、塗料としての優位性というのをもっと発信していきたいです。今は需要が少ないのがデメリットなので、もっと興味を持ってくれる人が増えたら面白いと思っています。しかしプレーヤーが少ないから僕でも声をかけてもらえる。僕が陶芸をしていたら埋もれていたと思います。漆を続けているからこそ生まれる縁が、今の自分を形成しています。あとは漆の用途を増やすことで、漆屋さんや漆掻き職人さんにも何か還元出来るんじゃないかと思っています。漆は学ぶ場所が少ない、かぶれるなどリスクがある素材です。材料としても、国産漆は約10万円/kg、中国産でも約1万/kgと高いです。中国産だから悪いと言う人もいますが、江戸時代からずっと頼ってきている良質なものです。漆のお椀など日常で使う物をはじめ、様々なアイテムに漆塗りを施すことで需要が増えればいいですね。

ー作家として心がけていることはありますか?

続けることですよね。その作品の価値を保証するために自分が作家として続けなければいけない。値段をつける上で、その責任感はいつも感じています。

ーアートをしている感覚はありますか?

カテゴリーとして僕は漆芸家でいいのかなと思います。職人的な仕事と作家の仕事を使い分けて柔軟に楽しんでいます。ストリートやサブカルチャーを吸収して育ったので大友昇平さんや丸岡和吾さんなど、工芸と違うジャンルにも興味があります。そういったカルチャーに、漆も発展してもいいかなとは思っています。

ー次世代に繋げようと思いますか?

今まで自分のことで精一杯だったんですけど、2021年から母校の東北芸術工科大学で非常勤講師として授業をすることになりました。20歳の学生たちに何を教えられるか考えますし、教えることによって自分自身にも何か発見があるかなと楽しみにしています。限られた時間の中で、漆に興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいなあと思います。

高橋悠眞 Takahashi Yuma
1988年 東京都生まれ
2015年 東北芸術工科大学 芸術学部美術科工芸コース 卒業
2018年 金沢卯辰山工芸工房 修了
現在 金沢にて制作

■2021年展覧会スケジュール
スペース大原(岐阜県多治見)
4月3日(土)〜4月11日(日)
高橋悠眞・靏林舞美 展(漆・ガラス)
http://www.spaceohara.com/

アートスペースモルゲンロート(東京都南青山)
5月6日(木)〜5月16日(日)
北郷江・高橋悠眞 展(陶・漆)
http://morgenrotarts.com/

クラフト広坂(石川県金沢)
6月1日(火)〜6月27日(日)
杉原倫子・高橋悠眞(ガラス・漆)
http://www.crafts-hirosaka.jp/